BDB NEWS No.03 - M&Aのしくみづくり -

 私は平成3年(1991年)に「今、なぜ経理システムなのか」を中央経済社の経理情報に15回連載した。振り返ると、バブル崩壊後における日本企業再生のスタート時点であった。同じ1991年に経営顧問サービスを本業にする株式会社ビジネスデザインビューローを設立し、平成19年に上場会社監査事務所である御成門公認会計士共同事務所を設立し、今日に至っている。この20年間に受託したDDは96件に及び、また会社売却を支援した件数も12社に及ぶ。その経験の中で、専門家としての守秘義務の許す範囲で、経理情報の主たる読者である経理部の方々を意識して、事業会社における「M&Aのしくみづくり」を同じ経理情報に連載をする。

 

1.我が国の今と未来


1)人口減少社会
 我が国経済の長期成長の制約条件として正確に見通せるのは人口動態である。国立社会保障・人口問題研究所の平成24年1月の推計によれば、出生中位・死亡率中位の仮定で2110年の我が国の人口は 4,286万人になる。今後100年で3分の1になるわけであるが、仮に出生率が1.6まで回復したとしても、人口はなお6,000万人にまで減少する。したがって企業経営において人口減少は与えられた条件と考えなければならない。
 ルネサンスが人口減少の中で花開いた歴史をみても悲観することばかりではないが、一人当たり生涯所得が増加したとしても、数量的な需要が減少することは間違いない。社団法人日本経済調査協議会が2008年3月に提言した「人口減少時代の企業経営」の中で指摘しているように、縮小する需要に対して事業を再編し、供給力を整理する必要がある。それゆえ内外を問わないM&A戦略が一層重要になる。すでに医療品業界や食品工業での合併や株式取得は数多く行われている。積極的なM&Aでは日本たばこ産業、日本板硝子、ソフトバンク、サントリー、東芝などが海外企業を対象とする大型M&Aを実行し、海外需要の取り込みを目指している。さらに日本政府は国策として海外からの投資を増やすための環境整備を図ろうとしている。2014年になって中小企業の事業承継型M&Aも急増している。人口減少社会は、M&Aの時代ともいえる。

 

2)経営目標の変化
 人口減少社会においての経営目標は、「成長発展」から「持続可能性」に変化してくるであろう。経営の持続可能性はそもそも江戸時代の日本やドイツ経営学でも常識的な経営目標であるが、地球環境問題からサステナビリティという言葉であらためて注目されている。人口減少社会になる日本であるがゆえに将来は循環型社会が実現可能していくものと推察される。
 温暖化問題、食糧問題、水問題が人々の生活に被害をもたらし、生態系の破壊も進み生物種が急速なスピードで絶滅しており、我が国企業にとっても環境経営、CSR経営が重要経営課題になっている。
短期的な利益を上げることだけではなく、将来に渡って事業が存続できるように考える必要があり、その重要な解決策の一つがM&Aである。
 顧客、取引先、株主、従業員などのステークホルダーに対して継続的に企業の価値を提供し続け、企業が社会貢献に繋がるようなサステナビリティを意識した経営を重視すると、M&Aによるシナジー効果を実現することが必要になる。シナジー効果の詳細は2回目に述べるが、シナジー効果を実現しやすいのが、水平的M&Aによる拡大戦略とバリュー・チェーンの再構築のための補完的なM&Aである。
 バリュー・チェーン(Value Chain)とは、マイケル・ポーター が著書『競争優位の戦略』の中で用いた言葉である。主活動は購買物流オペレーション製造)、出荷物流マーケティング・販売、サービスからなり、その支援活動として企業インフラ、人材資源管理、技術開発、調達から構成されている。購買した原材料等に対して、各プロセスにおいて価値(バリュー)を付加していくことが企業の主活動であるというコンセプトに基づいたものであり、(売上)-(主活動および支援活動のコスト)=利益(マージン)である。
 バリュー・チェーンの再構築のためのM&Aが競争優位性をもたらす理由は、市場変化に柔軟に対応することが可能になり、結果として顧客に価値がもたらされるからである。つまり、コストリーダーシップ戦略をとるにせよ、差別化戦略をとるにせよ、個々の企業が独立して再構築するのではなく、M&Aを活用して再構築することでシナジー効果が達成できる。

 

2.これからのM&Aのしくみづくり


 M&Aは企業活動としてすでに定着しており、いわば日常化している。大企業によるIN-OUT型のM&Aに加えて、IN-INの産業再編型M&A、中小企業の事業承継型M&Aの件数が最近になって急増している。さらに、世の動きに合わせてM&Aに関連する規則、方針、ガイドラインなどが、数多くの公的機関から発行されている。また、M&Aに関する書籍も多数発行され、M&Aにおける重要な経営技術であるデューデリジェンスもその略称DDとともに市民権を得た「ことば」になっている。

 事業会社にふさわしい「M&Aのしくみ」は、つぎの図のように、シナジー効果の実現を目標にして、そのことを目指したM&A戦略、PREDD、本番DD、M&A成立,新しい事業計画と、軸のぶれないしくみを開発することである。