1.これからの社長交代プロセス
DDという経営技術はM&A以外の局面でも使える。(DDのことは末尾をご参照ください)
そのなかでも効果的なのは、社長交代DDである。これを実施している企業はまだ無い。この言葉は私が初めて使った言葉である。しかし子会社の社長交代においてDDをするのがあたりまえの時代が来るものと予測している。その根拠は人口減少社会という近未来の日本、新興国の隆盛、これに加えて創業者が少ない現状、これらを勘案すると、総需要が減少するのは間違いなく、いかなる業種・業態においてもバリュー・チェーンの再構築は避けて通れない経営課題であるということである。
私は創業社長が引退した後、社内が混乱して会社業績が振るわない企業の事例に数多く接してきた。人口増加により総需要が増加していた時代には、派閥争いによる経営の停滞は、誤差で許された。しかしこれからは致命傷になる恐れがある。バリュー・チェーンの再構築は半端な経営課題ではない。社長の強いリーダーシップが求められる。バリュー・チェーンの再構築において描く未来のありたい姿は十人10色で良く、ありたい姿に関する思いの違いは大いに議論すれば良い。元々、正解がある話ではない。しかし、現状を客観的に分析しないまま社長交代し、その後現状認識のズレからは懐疑心が発生し、前任社長との間の反目を生じることは避けたい。
M&Aをシナジー効果実現の手段であると考えると、そのプロセスには社長交代と共通することが多い。よって、M&Aのプロセスを社長交代にあてはめて考えてみることは有効である。
2.社長交代DDはFACT FINDING
社長交代DDを行うには、組織意識、また他人事といった無責任な態度ではなく、自由に発言し、相手の言うことを積極的に聞くような問題解決力の高いチームである必要がある。
これからの未来は不透明である。過去の延長線上から脱却しなくてはならない今だからこそ、現実を客観的に、そしてフェアに、大きなモレがないように全体観を持ってとらえることが大切である。そのポイントはチェンジチェアである。
しかし、FACT FINDINGするにも、事業計画に基づく目標設定が重要である。現状点検を総花的に実施しても解決策の発見につながらない。現実を観察し、WHY、WHY、WHYを繰り返す必要があるが、そのためにも目標を順分に認識し、正当な注意力を持って観察する必要がある。
ご参考
DDとはDue diligenceの略語である。日本語では買収監査と翻訳されるが、学術的には、ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力のことであり、ビジネス、法務、財務、税務、人事、環境、情報技術といったさまざまな観点から調査される。
代表的なDDはつぎの3つである。
(1)未来との対話であるビジネスDD
この担い手はアーティステックな経営者であり、その指示の下、買収企業担当者やコンサルティング会社が担当する。その調査内容は主に事業活動に関する調査、市場の概況、商品の特質、事業活動や購買、生産、販売活動、研究開発活動等の実態調査である。
(2)利害関係との対話である法務DD
この担い手は経験豊富な弁護士であるが、買収企業担当者も経験を重ねてきている。その調査内容は、ストラクチャの適法性、定款や登記事項等の法務面での基本事項、対外的な契約関係、労務リスク、係争事件による損害賠償等の調査である。
(3)現実との対話である財務DD
私も含む公認会計士が多くを担ってきた。税務リスクについて税理士が参加することも多い。買収企業担当者も経験を重ねてきている。その調査内容は、財務・会計・税務面に関する調査、資産評価、負債網羅性、損益状況の推移、現在の財政状態、将来の損益、資金状況の見通し等の実態調査である。